2020年にドバイで開催された万博は、初の中東開催として大きな注目を集めました。
そして2025年、次なる開催地は日本・大阪へ。
どちらも“未来の都市像”を掲げており、それぞれが異なるアプローチで世界に挑んでいます。本記事では、ドバイ万博と大阪万博を「コンセプト・会場・テクノロジー・経済効果」など多角的に比較していきます。
✅ 概要(ポイント)
- ドバイ万博は中東初の開催、未来都市と持続可能性を体現
- 大阪万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマ
- 会場規模・参加国・注目技術に大きな違いあり
- 経済効果や都市開発のインパクトにも注目
- 日本とUAEの万博に対するスタンスの違いが明確
ドバイ万博と大阪万博の違いは?

2021年にあったドバイ万博とは?
「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」
2021年10月〜2022年3月に開催(※2020年から延期)

特徴と注目のパビリオン
🦅 UAEパビリオン(ファルコン型建築)について
ドバイ万博で最も注目されたのが、開催国UAE(アラブ首長国連邦)のパビリオンです。
建物の外観は鷹(ファルコン)の羽ばたきを模した流麗なデザインで、建築家サンティアゴ・カラトラバが手がけました。
屋根の羽のような部分は開閉可能で、太陽光や空気循環に配慮したサステナブル構造
建物は4階建てで、展示エリア、劇場、インタラクティブ体験空間などを備えていました
特徴:
鷹はUAEの国鳥であり、誇りと伝統の象徴
未来志向の教育・宇宙開発・文化保存がテーマで、「UAEが描く100年後の国家像」を映像や体験型で展示
日本館の演出が高評価
日本館(Japan Pavilion)は、来場者からも国際的な評論家からも非常に高い評価を受けました。特に、デジタルアート・和の演出・おもてなしの融合が印象的でした。

特徴:
- 建物デザインは折り紙と麻の葉模様を融合したもの
- サステナブル素材と太陽光対策のための庇を採用
- 展示内容は「つながり」をキーワードに、日本の伝統・科学技術・アニメ文化などがバランスよく紹介
- 最終エリアでは次回大阪万博のVR体験も提供し、未来とのつながりをアピール
- 世界中の来場者に配慮した多言語ナビゲーションや温かみのあるスタッフ対応が話題に
🌐 スマートシティのモデルが多数展示
ドバイ万博のもう一つの大きな柱が「スマートシティ」関連展示でした。特に以下の技術やインフラモデルが各国のパビリオンやテーマ館で紹介されました:
主要展示内容:
- 完全自動運転の公共交通(トンネル型移動システムや電動バス)
- 顔認証とAIによる都市セキュリティ
- IoTとビッグデータによるエネルギー最適化(太陽光、蓄電管理)
- 水の再利用・海水淡水化システムなど持続可能なインフラの実例
- スマートホーム、スマートグリッド、スマートゴミ収集など、日常に近いテクノロジーも豊富
これらの展示は、ドバイ万博のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」にふさわしく、都市と人々、テクノロジーがどう結びついていくかを視覚的・体験的に示していました。
ドバイ政府の狙いと成果
🏙 不動産開発:EXPO CITY DUBAIへの転用とは?
ドバイ万博の会場は、使い捨てではなく再活用前提の都市設計がされていました。閉幕後、そのエリア全体を「EXPO CITY DUBAI(エキスポ・シティ・ドバイ)」という新たなスマートシティに再構築しています。
特徴:
- 万博会場の80%以上の建物を恒久利用(再建設ではなく転用)
- UAEパビリオン→「UAEビジョンセンター」
- サステナビリティ館→教育施設や展示場へ
- 日本館跡地も企業誘致向けスペースに転用検討中
開発ビジョン:
- ゼロカーボン都市を掲げ、クリーンエネルギー供給を整備
- 歩行者中心設計(車ではなく徒歩と自転車優先)
- 大規模なスタートアップ支援施設、研究開発拠点の誘致
- 周辺には高級レジデンス、国際学校、ホテル群も併設予定
これは単なる「元万博跡地」ではなく完全に未来志向のスマートエコ都市として再誕生しています。
🌐 国際ビジネス誘致と観光促進
ドバイ万博のもう一つの大きな成果は、国際的ビジネスハブとしての認知向上と企業誘致です。
ビジネス誘致の要:
- 万博期間中に190カ国以上の政府・企業・投資家が集結
- 各国パビリオンが“ショールーム的役割”を果たし、ビジネスマッチングが活発に
- 万博会場跡地にはフリーゾーン指定で外国資本を優遇(法人税免除・100%外資所有可能)
- 特にテック・ヘルスケア・環境系スタートアップの進出が進行中
観光への影響:
- 万博を通じて中東の玄関口としてのイメージアップ
- エキスポ跡地が観光スポットとして活用され、未来都市体験ができるテーマパーク的要素も
- 会場近隣にはショッピングモール・ホテル・テーマ展示が続々オープン
例:
ドバイ・メトロのEXPO 2020駅が観光とビジネスアクセスのハブに
「Alif(モビリティ館)」は体験型展示施設として営業継続中
大阪万博とは?基本情報・会期・テーマ
「いのち輝く未来社会のデザイン」
2025年4月13日〜10月13日

注目の取り組み・建築
🌐 リング型会場「グランドリング」とは?
● 概要
大阪万博の象徴的な存在が、巨大な空中回廊「グランドリング」。
これは地上から約12〜20メートルの高さに設置される、全長約2kmのリング状の歩行者空間です。

● 特徴
- 会場全体をぐるりと囲むリング型の構造で、まるで「空中に浮かぶ未来都市」のような景観
- リングの上には、自然・水・光をテーマにした展望エリア、飲食、アート空間が展開
- 地上と空中の2層構造で、回遊性が高く、各パビリオンとのアクセスもスムーズ
- リングそのものが「展示・滞在・体験の場」となる、新しい都市設計の発想
● 建築的意義
日本的な「縁側」や「回遊庭園」の思想もベースに
設計は藤本壮介建築設計事務所(世界的建築家)
🚁 空飛ぶクルマ、未来医療など最先端技術
大阪万博は、“未来社会の実験場”をテーマにしているだけあって、テクノロジーの展示・実装も先進的です。
● 空飛ぶクルマ(eVTOL)
- 万博会場と関西空港を結ぶ実証飛行が予定されている
- 国内外の企業(SkyDrive、Joby Aviationなど)が開発に関与
- 将来的には都市間移動、災害時輸送などの社会実装も視野
● 未来医療
- 再生医療・遺伝子治療・遠隔診断など、医療分野の革新技術を展示
- 国際的な医療機関や企業が協賛し、「人類のいのち」にフォーカスした展示が多数
- 医療データ共有・AI診断・メタバース診療所なども試験的に体験可能に
● その他のテック要素
- メタバース会場:実際の来場ができない人もデジタル上で体験可能
- 次世代エネルギー・CO2削減技術・水素供給網の紹介と実装
🎨 チームラボなど参加アーティストにも期待
● アートとテクノロジーの融合
大阪万博では、芸術を通じて“感性×未来”を表現することにも力を入れています。
チームラボ(teamLab)
- 日本を代表するデジタルアート集団
- 「自然とテクノロジーの共生」をテーマに、インタラクティブな空間体験型展示を予定
- 暗闇や水面、空間を使った没入型アートで、子どもから大人まで楽しめる構成が期待されている
他の注目アーティスト
- 宮島達男(デジタルと哲学的テーマの融合)
- 海外からも、建築家・現代アーティストが多数参加予定
- 万博全体が「屋外美術館」のような演出をめざしている
日本社会に与えるインパクト

💰 関西経済の起爆剤
大阪万博は、単なる国際イベントにとどまらず、関西経済の再活性化に向けた大きな起爆剤と見なされています。
主な波及効果:
- 経済波及効果:約2兆円超(試算)
- 約28万人の雇用創出(建設業、観光、小売、交通など広範囲に及ぶ)
- 中小企業や地場産業がグローバル市場と接点を持つチャンス
- 万博後も継続的な開発が見込まれる「夢洲エリア」が、新産業集積地へと変貌する可能性あり
長期的視点:
- 万博は、関西圏が首都圏依存から脱却する“分散型経済”への転機となるかも
🛫 観光インフラ整備・関空アクセス改善
万博に向けて、関西全域で観光・交通インフラの再整備が進行中です。これは、外国人観光客の増加やビジネス客の受け入れ強化にも直結します。
改善ポイント:
- 夢洲〜関西国際空港のアクセス高速化(鉄道延伸・シャトル船・空飛ぶクルマの活用)
- 地下鉄中央線の延伸工事(夢洲直結)
- 関空の国際線ターミナル改修、バリアフリー化
- 宿泊施設の拡充(新規ホテル、AIコンシェルジュ導入)
- ムスリム対応、多言語案内などインバウンド向け体制の強化
効果:
万博後も関西が“世界から選ばれる目的地”としての地位を確立するための基盤整備に
🧬 医療やヘルスケア分野のブランディング
今回の万博テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。このテーマに強く結びつくのが、日本の医療・ヘルスケア技術の発信です。
展示・取り組み内容:
- 再生医療・AI診断・ロボティック手術などの日本が強みを持つ先端医療技術を展示
- 厚生労働省や医療企業が連携し、未来型クリニックや遠隔医療の体験ブースも登場予定
- 「デジタルツイン」などを活用し、仮想空間で健康管理できる都市生活モデルも提示される
ブランディング効果:
地元の医療機関や大学の国際共同研究の機会も増加
日本=「医療・健康大国」としての国際的なプレゼンスを強化
日本の医療ツーリズム(健康診断、治療目的渡航)や製薬・ヘルステック分野の海外展開が加速
ドバイ万博と大阪万博を徹底比較
比較項目 | ドバイ万博 | 大阪万博 |
---|---|---|
開催年 | 2021〜2022 | 2025 |
開催国 | UAE(ドバイ) | 日本(大阪) |
参加国数 | 190超 | 約150(予定) |
テーマ | 未来都市・連携・サステナビリティ | 生命・医療・未来社会 |
会場跡地の利用 | EXPO CITY DUBAIとして開発中 | 万博後の「夢洲開発」が注目 |
テクノロジー | ドローン、スマートシティ、5G | 空飛ぶクルマ、バーチャルパビリオン |
経済効果 | 約8兆円 | 約2兆円超(見込み) |
万博を通じた都市開発の違い
🏙 ドバイ:都市全体をブランディング
「完成された未来都市」の見せ方
ドバイは、万博を機に都市全体のブランド価値を世界に向けてプロモーションする機会として活用しました。すでに完成していたインフラや巨大資本との連携により、“出来上がった未来”を体感させる戦略です
🔧 具体的な強み:
- 都市設計×資本力×即応性の三位一体
- 既存のランドマーク(ブルジュ・ハリファ、パーム・ジュメイラ)などと万博の未来像が地続き
- すでに存在する国際ビジネスハブ・不動産市場を強化する位置づけ
- 「EXPO CITY DUBAI」など万博跡地もすぐに次の都市機能へ転換(スピード感が段違い)
- UAE政府と財閥系デベロッパー(Emaarなど)の官民一体の推進体制
狙い:
- ドバイ全体を「住みたい・投資したい都市」としてグローバルに認知させる
- 観光・不動産・テクノロジー・金融すべての導線を万博に集約するシナリオ設計
つまり、ドバイは万博を“未来都市の完成形”として世界に印象づけ、そのまま都市ブランド価値へと昇華させました。
🌏 大阪:夢洲を再開発“これから創る”挑戦
「未完成の未来」から始めるリアルプロジェクト
一方の大阪万博は、「すでに完成した都市を誇る」のではなく、万博を起点として未来の都市像を“共に作り上げる”というプロセス重視のスタイルです。
🔧 夢洲(ゆめしま)とは?
- 大阪湾の人工島で、もともとは物流港湾・廃棄物処理地として使われていた
- 現在は万博を起点に、「未来型スマートシティ」への変貌を目指して急ピッチで開発中
- 万博終了後はIR(統合型リゾート)開発・高機能都市機能の集積地に進化予定
📈 再開発型ならではのポイント:
- 土地整備、インフラ導入、都市機能はすべて“これから”整える必要がある
- 開発リスクは高いが、その分日本の技術や行政調整力が問われる挑戦
- 大阪府・市、国、企業が連携し、「ゼロから都市をつくる」希少な機会
- 夢洲開発は日本国内の都市再生のモデルケースともされ、次世代都市づくりの試金石
🎯 狙い:
- 関西圏の産業構造を変革し、未来型ビジネス(医療、テック、観光)を呼び込む
- 万博後に残る都市インフラを、持続可能な形で経済・社会変革に活用
- “万博のための都市”ではなく、“未来を創る都市”の始点としてのブランディング
🧩 まとめ:都市戦略の違い
比較軸 | ドバイ | 大阪(夢洲) |
---|---|---|
タイプ | 既存都市のブランディング | 未開拓地の再開発・創造 |
主体 | 官民連携(資本優位) | 政府・自治体・企業の横連携 |
成熟度 | 都市機能は既に完成・成熟 | 都市機能はこれから構築 |
メッセージ性 | 「今すぐ来て投資を」 | 「未来を共に作ろう」 |
万博の役割 | 都市価値の提示・証明 | 都市創造の起点・呼び水 |
ドバイは「見せる未来」、
大阪は「育てる未来」。
どちらも魅力的ですが、視点の位置がまったく異なるのが非常に興味深いですね。
どちらの万博が未来を変えるのか?
🏙 ドバイは「商業」「国家戦略」に長けていた
ドバイ万博は、ただの国際イベントではなく、国家ぐるみの「ビジネス戦略」そのものでした。
💼 商業性の高さ
- 各国・企業のパビリオンは、展示というよりビジネスプレゼン会場に近い構成
- 190カ国以上が参加し、技術・資源・投資先をめぐる国際的なマッチングが活発に行われた
- 会場周辺の開発(EXPO CITY DUBAI)はそのまま不動産価値と観光収益に直結
- 多くの展示が実際に「購入・契約」につながる構成で、リアルタイムでお金が動く万博
🏛 国家戦略との連携
- ドバイ政府は万博を国家ブランド強化の柱と明確に位置づけ
- 観光業・不動産・テック・教育など、将来の柱産業を世界に提示
- 会場の立地、交通インフラ、国際会議の併設なども国策的視点で最適化
ドバイは、「万博を使って何を売るか・何を伸ばすか」が明快だったのが大きな強みでした。
🌏 大阪は「社会課題(医療・福祉)」への挑戦
大阪万博は、より公益性・人類的課題の解決にフォーカスしています。
テーマも「いのち輝く未来社会のデザイン」という、人間中心・社会福祉的アプローチ。
🧬 医療・福祉への焦点
- 再生医療・AI診療・遠隔医療などの先端技術が主軸
- 障がい者や高齢者を含めた全包摂型の未来社会をイメージ
- パビリオンやインフラもユニバーサルデザインを徹底
- 日本の医療制度・健康保険・介護福祉技術を海外に伝える意義も
🧩 社会課題解決の実験場
- 環境負荷の低減(木造建築、再エネ、水素活用)
- 教育格差、医療過疎、高齢化といった課題への「仮説と検証の場」
- 一部では医療・介護分野の就業促進もテーマに
大阪万博は、儲けよりも「人類にとっての意味ある未来とは何か?」を問い続ける性質が強いです。
🧭 どちらも「未来志向」だが、スタンスが異なる
比較軸 | ドバイ万博 | 大阪万博 |
---|---|---|
中心軸 | ビジネス・国家ブランド | 社会課題・人類的価値 |
未来像 | テックと資本の統合都市 | 命・健康・共生の未来社会 |
スタンス | 投資・誘致・成長の加速 | 課題解決・共創・倫理的実験 |
展示の方向性 | 即ビジネス化・プレゼン型 | ビジョン提示・共感型 |
両者とも「未来」を語っていますが、
- ドバイは“技術と資本による現実的な未来”
- 大阪は“人間と倫理を中心とした理想の未来”
という、異なる哲学とゴールを持った未来像を提示しています。
まとめ:ドバイ万博と大阪万博の違い
ドバイ万博と大阪万博は、いずれも“未来”をテーマに掲げながら、そのアプローチは対照的です。
ドバイは、既存の都市力と資本を武器に、未来型都市を体現しながら国際的な商業・投資誘致を加速。万博は「今すぐ来て投資してほしい」ための完成された舞台でした。
一方の大阪は、夢洲という未開発地を舞台に、医療・福祉・環境といった人類の課題を共有しながら「ともに未来を創ろう」という社会実験に挑んでいます。
この2つの万博は、それぞれの国の価値観、戦略、そして“未来”のとらえ方そのものを映し出す鏡。大阪万博が示す「課題解決型モデル」は、世界に対する日本からの提案として、その意義が問われる瞬間となるでしょう。
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