ドバイの空に降る水は、自然の恵みだけではない。雨の少ないこの都市では、クラウドシーディングという人工降雨の技術が導入され、乾いた大地に命をもたらしている。今回は、この不思議で最先端の気象操作技術と、その背景にある事情、そして実際の効果と影響について詳しく紐解いていく。
【記事のポイント】
- クラウドシーディングとは何か、どのような仕組みか
- ドバイでクラウドシーディングが行われる理由と歴史
- 実際の雨の事例と住民への影響
- 技術のメリットと副作用についての実例
- 今後の展望と倫理的な議論
砂漠に降る人工降雨ドバイのクラウドシーディング技術とは

ドバイで「雨をつくる」理由と技術の仕組み
ドバイという都市を訪れたことがある人なら、強烈な日差しと乾いた空気にまず驚くだろう。砂漠の真ん中に建つ高層ビル群。その背後には、年間降水量わずか100mmほどという過酷な自然環境がある。そんな中、ドバイ政府は20年以上前から「クラウドシーディング」という人工降雨技術に目をつけた。
クラウドシーディングとは、雲の中に塩化ナトリウムやヨウ化銀などの粒子を散布し、人工的に雨を降らせる気象操作技術である。
ドバイでは、国家気象センター(NCM)がこのプロジェクトを主導し、航空機や最近ではドローンを使って空へ粒子を撒いている。
実際に現地を訪れた際、空港近くで「今日、クラウドシーディングが行われた」と地元のニュースで知ったことがある。その日、急に空が暗くなり、信じられないほどの土砂降りが襲ってきた。市内の道路が冠水し、数時間で交通が麻痺する光景は、日本では見られないスケールだった。
参考:
UAE National Center of Meteorology (NCM)
2024年4月16日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイは、観測史上最大級の豪雨に見舞われました。この日、ドバイでは12時間で約100ミリの降雨が観測され、これは同地域の年間降水量に匹敵する量です。 CNN.co.jp
突然の雨と市民生活——メリットと混乱が同居する街
クラウドシーディングの効果は明らかだ。2022年には実施後に記録的な雨が降り、砂漠地帯に一時的な池が現れたほどだ。乾燥に悩む農家や公園管理者にとっては、まさに恵みの雨といえる。
しかし、その一方で問題も発生している。ドバイは元々、豪雨を想定した都市設計がなされていないため、大量の雨が降ると下水や排水が追いつかず、浸水や冠水の被害が相次ぐ。
あるカフェ店主は、2024年初頭の大雨の際、「地下の倉庫が完全に水没し、商品が全滅した」と語っていた。雨を待ち望む人々がいる一方で、それによって生活が脅かされる人もいる。雨が欲しいけれど、いつ・どこに・どれくらい降るのかが読めないというのが現実のようだ。
このような現象が頻発することで、「クラウドシーディングは本当に正しい選択なのか?」という議論も始まっている。
参考:
The National News – Dubai rainfall causes flooding after cloud seeding
人工降雨失敗?砂漠のドバイが大洪水に。
この異常気象により、ドバイ国際空港では駐機場が冠水し、約30分間の離発着停止や多数のフライト遅延・欠航が発生しました。 市内の主要道路も冠水し、交通が麻痺。
地下鉄の一部区間が運休となり、学校の休校や政府機関の在宅勤務措置も取られました。
この豪雨は、アラビア半島とオマーン湾を横断する大型の嵐によるもので、隣国オマーンでも鉄砲水により少なくとも17人が死亡する被害が報告されています。
UAE政府は、今後同様の事態を防ぐため、約300億ディルハム(約1兆2800億円)を投じて、ドバイ全土をカバーする排水ネットワークの整備を進める計画を発表しました。
この出来事は、砂漠地帯であるドバイが気候変動により異常気象の影響を受けやすくなっている現状を浮き彫りにし、都市インフラの適応策が急務であることを示しています
ドバイ不動産王の与沢翼さんもドバイに滞在して被害に
自身のX(旧Twitter)アカウントで「今週の月~火と、ドバイに大雨が降って、メッセージとかコメントいただきました。ご心配いただき、ありがとうございます。無事です。」と報告しています。
ドバイで多数の不動産運用で実績を上げており、SNS上では心配の声が相次いだ。
与沢さんのからの現地の声によると、所有している不動産に関しては、ほぼほぼ無事だった様子。
人工的に雨を降らせることの倫理と限界
クラウドシーディングには明確な利点がある。水資源が限られるドバイにとって、これは生き残りをかけた国家戦略ともいえる。海水淡水化プラントと並ぶ、もう一つの水の供給手段なのだ。
しかしその一方で、「空を操作すること(人工降雨技術)」には倫理的な問題も存在する。
たとえば、隣接する地域が本来受け取るはずの雨雲をドバイが“先取り”してしまうとすれば、それは気象的な不公平と言えるのではないか。
また、クラウドシーディングに使われる粒子、特にヨウ化銀の環境負荷については、今のところ大きな汚染報告はないものの、長期的な影響については懸念の声もある。
参考:Environmental impact studies on silver iodide in cloud seeding (NCBI)
つまり、クラウドシーディングは今すぐ必要だが、将来への責任も伴うテクノロジーなのである。
ヨウ化銀(AgI)は大丈夫なのか?

クラウドシーディング(人工降雨)の際に「雨粒の核」としてよく使われている化学物質ですが、その環境負荷については長年議論が続いています。
■ ヨウ化銀の特徴と使用理由
ヨウ化銀は水にほとんど溶けず、氷晶核としての性質に優れているため、雲の中で氷の結晶をつくりやすく、雨や雪を降らせる起点として利用されます。
- 化学式:AgI
- 性質:不溶性、光感応性
- 用途:クラウドシーディング、写真フィルムなど
■ ヨウ化銀の環境影響に関する主な研究と見解
【安全とされる根拠】
- アメリカ環境保護庁(EPA*による調査では、クラウドシーディングで使用される量のヨウ化銀は「環境的に無視できるレベル」とされており、水質・土壌への影響は極めて少ないと結論づけられています。
- 大気中に散布されたヨウ化銀は、拡散・沈着しにくく、地表に到達する量はごく微量。
👉 参考:
EPAによる研究
NCBI論文:クラウドシーディングとヨウ化銀の長期影響
【懸念されるリスク】
- ヨウ化銀は銀化合物であり、生物に対して毒性を持つ可能性がある。
- 特に水生生物に対しては蓄積性のリスクが指摘されており、長期間の繰り返し散布によって局所的な汚染が蓄積する可能性は否定できない。
- 銀イオン(Ag⁺)に分解された場合、水環境への影響は強く出ることもある。
【実例】
- アメリカ・コロラド州では50年以上クラウドシーディングを行っており、現時点では重大な環境被害は報告されていない。
- ただし、環境団体の中には「長期蓄積や複合汚染の観点から継続的な監視が必要」という立場もあり、完全に安全とは断言されていない。
ヨウ化銀は、現在の使用量と技術レベルでは「比較的安全」
ヨウ化銀は完全に無害というわけではありません。
特に長期的な視点や、生態系全体への配慮が求められる分野であり、今後も監視・研究が必要です。
クラウドシーディングの持続可能な活用には、こうした化学物質の「見えにくい影響」を丁寧に見ていく姿勢が大切だと言えるでしょう。
空を見上げる未来ードバイが示す可能性
ドバイがクラウドシーディングによって「雨を呼ぶ」都市として注目を集めているのは、単に乾燥地帯だからではない。
ドバイは今、人工降雨を通じて気象を“操る”だけでなく、それを観光資源や国際研究のプラットフォームとして活用しようとしている。
近年ではAI技術と衛星観測を組み合わせ、どこにどれだけのクラウドシーディングを行うかを細かく分析し、効率と安全性の両立を図っている。
また、「雨の降る砂漠」という非日常体験を求める観光客向けのPRにも活用されている。
私自身も、何度か滞在中にスコールのような突然の雨を体験したが、その後すぐに太陽が顔を出し、濡れたアスファルトの上でキラキラと光が反射する風景は、まさに“人工と自然の共存”を象徴しているかのようだった。
クラウドシーディングが完璧な技術でないことは間違いないが、それをどう活かし、どう制御し、どう共存していくか——その試みを最前線で行っているのが、他でもないドバイなのだ。

クラウドシーディングとドバイの未来人工降雨がもたらした砂漠の都市の可能性
クラウドシーディングという技術が、ドバイにどのような恩恵と課題をもたらしているのかを見てきた。
この都市では、雨をただの自然現象としてではなく、「創り出すもの」として扱っている。
確かに、突然の豪雨や都市インフラへの影響といった副作用は存在する。
だが、水が限られたこの環境で生き延び、発展し続けるためには、クラウドシーディングは必要不可欠な存在になりつつある。
今後、より安全に、より持続可能に「空に手を伸ばす」技術が進化することを願いつつ、
私たちがその雨に何を求めるのか、その答えもまた問われている。
ドバイの空に降る雨は、自然と人間の共同作業かもしれないのだ。
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