ドバイという名を聞けば、輝く高層ビル、ラグジュアリーなホテル、そして灼熱の砂漠が思い浮かぶかもしれません。だが、忘れてはならないのは「水」の話。あのまばゆい都市を支えているのは、意外にも「海水」から生まれた飲料水なのです。砂と光の都市が、どのようにして海から命をすくい上げているのか。その秘密を探ります。
【ポイント】
- ドバイの飲料水のほとんどは海水から作られている
- 海水淡水化技術の進化と種類を紹介
- 実際に現地で暮らす人々の体験談を交えて解説
- 環境への影響と将来の課題も視野に
- 持続可能な水インフラとしての意味を考える
砂漠の国ドバイ、海水を真水に変える奇跡。砂漠の命の水をたどる
海水が命の真水へと変わるドバイの水道の舞台裏
ドバイには川も湖もなく、降水量は年間わずか100mm程度。つまり、自然の淡水資源がほぼ存在しないという極限状態にあります。
それでも、この砂漠の大都市が日常的に飲料水を供給できている理由はただひとつ。海水を淡水化しているからです。ドバイでは現在、飲料水の約9割以上をペルシャ湾の海水から得ていると言われています(参考:DEWA公式サイト)。
主に使われているのは「多段フラッシュ蒸留(MSF)」と「逆浸透膜(RO)」という2つの技術。特に近年ではRO方式の割合が高まり、より省エネでクリーンな水づくりが進んでいます。
実際、私がドバイに滞在していたとき、ホテルのシャワーから出る水もレストランで提供される水も、すべてこの海水由来の飲料水。
最初は驚きましたが、無臭で透明。味にも違和感はなく、あらためて技術の力に感動しました。

テクノロジーと太陽の融合水が生まれる未来
海水淡水化は単なる技術ではなく、ドバイの生存戦略の中核を担っています。特に注目すべきは、再生可能エネルギーとの連携です。
たとえば、ドバイのハッサヤン(Hassyan)地区に建設された最新のROプラントでは、太陽光発電と併用することでエネルギー効率を飛躍的に向上させています(参考:The National News)。
さらに、ドバイ電力水道局(DEWA)は「2030年までにRO方式100%化」を宣言。これにより、海水から飲料水を得るプロセスが、より地球にやさしく、より安定的になることが期待されています。
そして、技術開発には世界中の企業が参画。三菱重工やVeolia、韓国のDoosanなど、日本やフランス、韓国の企業がドバイの水インフラに関わっているのも、非常に興味深い点です。
ドバイの淡水化プロジェクトの歴史
■ 1970年代:はじまり(初期導入期)
- ドバイが急速に都市化し始めた時期。
- 最初の淡水化設備は小型の蒸留式プラント(MSF)。
- 当初の目的は「ホテル・政府施設・一部住民向けの水供給」。
■ 1980〜1990年代:拡大期
- 人口と観光産業の急増により、施設規模を徐々に拡張。
- ジェベル・アリ(Jebel Ali)に最初の大規模プラントが建設。
- 発電所と連携した**コージェネレーション(発電+水)**が主流に。
■ 2000年代:技術革新期
- 経済特区・不動産ブームにより、需要が爆発。
- 逆浸透膜(RO)の導入が始まり、効率化と省エネが進む。
- 海外資本と官民パートナーシップによる新しいプロジェクトが増加。
■ 2010年代〜現在:脱炭素とスマート化へ
- DEWA(ドバイ電力水道局)が水と電力の統合戦略を展開。
- RO方式の割合が急増、太陽光との統合も進む。
- 「Water Security Strategy 2036」が発表され、100%RO化へ。

飲料水の「無味」を支える、見えない努力と課題
一見クリアで安全なドバイの飲料水ですが、実は「味」や「栄養素」の面で課題もあります。
海水からすべてのミネラルを除去した後に、必要な成分を人工的に加える「リミネラライズ処理」が行われます。
ただし、天然水と比べてミネラルバランスがやや不自然なことや、長期間飲み続けた際の栄養面での懸念は一部の医師からも指摘されています。
私がドバイ在住の日本人ファミリーを訪ねたとき、「飲料水は浄水器を通すか、海外のミネラルウォーターを買っている」と教えてくれました。生活水としては問題ないが、やはり味や健康への安心感からボトル水を選ぶ人も多いのが現状です。
また、淡水化の副産物として残る高濃度の塩水(ブライン)を海に戻す際、海洋環境への影響も無視できません。この点についても研究や改善が進められています

このプロジェクトは誰が主導?予算はどこから?投資の理由とは?
■ 主導者:ドバイ政府(特にDEWA)
- DEWA(ドバイ電力・水道局)が中心となって企画・推進。
- 国家レベルの「水の安全保障戦略(UAE Water Security Strategy 2036)」の一環。
- ビジョンは「持続可能な水供給の確保と経済発展の両立」。
予算はどこから?
■ 国家予算(政府支出)
- 国家インフラ整備費の中に「水資源管理」の項目あり。
- 原油や観光収入を財源とした政府系ファンドからの支出も。
■ 海外からの投資
- 例:日本の三菱商事、フランスのVeolia、中国企業などが参加。
- PPP方式(官民連携)で、外国企業と共同出資・共同運営。
ベオリア(Veolia)とは?
フランスに本社を置く世界最大級の環境インフラ企業
■ 基本情報
- 本社所在地:パリ、フランス
- 設立:1853年
- 旧称:Compagnie Générale des Eaux
- 主な事業分野:
- 水処理(浄水・下水・淡水化)
- 廃棄物処理・リサイクル
- エネルギー供給(地域冷暖房)
- 環境マネジメント
■ 海水淡水化分野での強み
- 逆浸透(RO)や蒸発法(MSF、MED)など幅広い技術を保有
- 世界中で100以上の淡水化プラントの建設・運用実績
- 中東、アフリカ、アジアなど水不足地域でのプロジェクトに多数関与
■ ドバイでの実績
- ドバイ近郊での水処理プラントの設計・運用に参加
- 特にJebel Ali(ジェベル・アリ)などの大型プラントで技術提供・運用支援
- DEWAや他国際企業と提携し、持続可能な水供給インフラに貢献
Veoliaは“地球の水の医者”とも言える存在
ドバイをはじめとする水不足地域において、最先端の技術と運用ノウハウを提供しています。
■ 国際金融機関からの融資・支援
- 世界銀行や湾岸協力会議(GCC)開発基金などもバックアップ。
- 低利ローンや技術協力の形で資金が流れることも。
Hassyan(ハッシャン)淡水化プロジェクト
- 総額:数十億ドル規模
- 出資:
- ドバイ政府:51%
- アブダビの政府系ファンド:20%
- 民間企業(地元&海外):29%
- 技術:日本企業と韓国企業の共同開発によるRO膜方式
なぜそこまでお金をかけるのか?
- ドバイには河川も地下水もほぼない=水は完全に人工的に作らなければならない
- 急増する人口、観光、ビジネス都市化により水需要が爆発的に増加
- もし水が止まれば国の経済が止まる=死活問題
ドバイの海水淡水化は、**政府の国家戦略として企画され、官民と国際社会を巻き込んだ「超大型インフラ投資」**です。
まさに「石油で水を買う」構図が、今や「未来技術に石油を変える」時代に入ってきているのかもしれません。

ドバイが教えてくれる「水の価値」、未来都市の知恵
海水を飲料水に変えるという壮大な挑戦。それを実現してきたドバイは、いまや「水を作る都市」として、世界中の注目を集めています。
砂漠に浮かぶこの未来都市は、海水を資源ととらえ、最先端の技術とエネルギーで命の水を生み出す。その姿は、気候変動と水不足に直面する21世紀の地球にとって、ひとつの答えを示しているようです。
もちろん、まだ課題はあります。ミネラル不足、環境負荷、エネルギー問題など、すべてが完璧ではありません。ですが、技術と国際協力が進むことで、よりよい飲料水の形が見えてくるはずです。
ドバイの取り組みは、ただの輸入モデルではなく、海水とともに生きる知恵。日本でも今後、水源の多様化や災害対策として学べる点が多くあると感じました。
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